TOUCH口腔機能回復センター http://touch-clinic.jp/ (舘村歯科クリニック内) 一般社団法人TOUCH http://www.touch-sss.net/

口腔機能の歯医者-DocTak舘村卓のささやきⅡ

摂食嚥下障害や音声言語障害に悩む方々のお役に立てる情報を提供します.

TOUCH Team for Oral Unlimited Care and Health
限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団
口腔機能の歯科医師 舘村卓は以下の代表を務めています
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嚥下食て?(摂食咀嚼嚥下基礎セミナーAの紹介もかねて)

少々時間が経ちましたが4月8日の日経新聞に「飲み込みやすい『嚥下食』フレンチや懐石料理でも」という記事が載っていました.プロの料理人が,高級料理を「嚥下しやすい」「スプーンですくえるやわらか」料理にして,高齢者に優しいサービスで画期的であるというような記事でした.

読んでいる途中から,少々複雑な気分になってきました.健康状態にかかわらず高齢者にとって,恐ろしいことは低栄養から生じるサルコペニア(筋肉が少ない状態)によって生活ができなくなるフレイル(ティ)です.したがって,良質の食事によって栄養摂取することが重要なのですが,問題はいかにしてその食事を良好に吸収させるかへの対応です.咀嚼を要しない丸呑みできる柔らかな食事では腸管の蠕動運動は低下し,消化管は廃用性委縮して栄養吸収状態は悪化します.

飲み込みやすい食事というのは,咀嚼する必要がない食事と言うことになります.咬合力は体重程度の強さであると言われていますが,運動生理学では最大に出せる筋力の20%以下の力では筋肉は廃用化すると言われています.また,大きな力を出せる筋肉では,使っていないと1週間で15%筋力は低下するとされています.

お年寄りに優しい,噛まなくて良い柔らかな食事を継続していると,そのうちに食事が食べられなくなり,さらに低栄養に陥る可能性を否定できません.

だから口で咀嚼して食べないといけない食事が良いのですが,咀嚼することで舌が左右に運動して食塊の送り込みが複雑になり,誤嚥リスクが高まってしまいます.

『だから咀嚼の必要のない柔らかい食事なのだよ』と言われそうですが,下の写真をご覧いただきたいと思います.写真は,被験者が明治HDの「メイバランスソフトjelly(ちょうど離乳初期食から中期食への移行的な物性です)」を,ティースプーン軽く一杯(写真左)とカレースプーン山盛り(写真右)を摂取した際の咬筋筋活動を示しています.ティースプーン一杯程度であるとほとんど丸呑みで処理するのですが,同じ柔らかさであっても一口量が多くなると(右)一気に処理様式が複雑になり,咀嚼様運動によって処理しなくてはならなくなります.すなわち,「柔らかい」嚥下食も,提供方法や食事方法によっては誤嚥リスクは高まることが判ります.

長々と記しましたが,新聞記事になると正解であるかのようにして現場で使われることが恐ろしいです.現在,TOUCHでは,摂食咀嚼嚥下基礎セミナーAの募集中です.上記したようなことの生理学的背景について優しく解説します.

ご興味のおありの方は,こちらからどうぞ.

一口量と処理様式

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