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口腔機能の歯医者-DocTak舘村卓のささやきⅡ

摂食嚥下障害や音声言語障害に悩む方々のお役に立てる情報を提供します.

TOUCH Team for Oral Unlimited Care and Health
限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団
口腔機能の歯科医師 舘村卓は以下の代表を務めています
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舌小帯のつづきです.言葉の面から見てみましょう

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Sander  いつ児は言葉を覚えるのか?


あなたは「将来,胃がんになってはいけないので胃を切除します」ということばで胃を取りますか?

適切に運動器官が機能を発揮するには,筋肉が発達する必要があり,そのためには「負荷をかけて運動させる必要がある」が原則です.

舌は筋肉の塊なので,負荷をかけて運動させることで大きくなり,舌機能は発達します.すなわち,食物の物性を高めていくことで送り込み運動や咀嚼運動が負荷となって,食事を摂取するための舌機能は発達していきます.

では,言葉を表出する機能はどうでしょうか?

上図は,アメリカのSanderという先生が発表された論文「When are speech sounds learned ?

」(Sander, EK. : J Speech and Hearing Disorders,1972, 37:54-63)の中の図です.この図の横軸は,ある音素の表出開始年齢の範囲を示しています.すなわち,口唇音[p][m][b]は,児によっては1.5歳で表出する子もいれば3歳になって初めて表出できる児がいる,という意味です.

[r]音(弾音)の表出は,舌尖が最も高く上がって口蓋に接触することが必要であり,舌の運動範囲の拡大と巧緻性の向上を要求するために,早い児でも3歳になってから,中には8歳までかかる児もあり,さらに摩擦音[s]は,舌側縁を左右の臼歯に触れつつ舌尖と口蓋の間に空間を作るという高い巧緻性を必要とするため,8歳になってようやく表出できる児がいることを示しています.臨床の現場でも,「先生」が「てんてい」になる幼児構音と称される話し方をする児がいます.

 

このような舌の高い巧緻性を必要とする音素は,4-5歳時においても舌小帯が短いと適切に表出することが難しいかもしれません.しかしながら,乳児の段階での舌小帯の状態から,早くとも3歳にならないと表出できないような,これらの音素の表出機能を診断できるのでしょうか?

先の記事でも書きましたが,舌は食事を摂する中で発達し,舌小帯も後方に(見かけ上)偏位して伸びてきます.とすると,診断は早期過ぎるのではないかと思えます.

すなわち,「将来,ことばに問題が生じる」「将来話せなくなる」というkiller phraseで手術を勧める方は,どれほど言語発達についての見識があるのでしょうか.さらに,このkiller phraseにもとづいて手術される医師,その中には言葉の専門家でもある耳鼻咽喉科医や口の専門職の歯科医師もおられることは残念でしかたありません.

 

あなたは,「この児が将来胃がんになってはいけないので,今,胃袋を取っておきましょう」ということばで手術を勧められるでしょうか.

 

 

 

第50回TOUCH摂食咀嚼嚥下基礎セミナーB 終了しました.

(一社)TOUCH摂食咀嚼嚥下基礎セミナーB(評価)終了しました.

 

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第50回TOUCHセミナー基礎B受講風景


基礎Aセミナーを基礎にして,臨床現場で有効な評価方法についてお話しました.臨床現場というと病院やクリニックを想定されることが多いのですが,これらは基本的に通院でき,指示に従ってtaskを履行できる人がほとんどです.このような方々での嚥下障害の評価は,VEやVFでも可能でしょう.しかしながら,実際に嚥下障害でお困りの方々は,指示に従えず,病院にもお越しになれない方々であり,これらの方々への日常生活を支援される方々がお困りです.

実際,2010年全国老人保健施設協会の調査では,当時協会に登録の3350老健施設の利用者さん298000人余りの85%が認知症であり,その内の80%がアルツハイマー病と血管性認知症でした.すなわち,ほとんどの利用者さんが,VEやVFでの検査自体の「適用」ではないということです.これを金科玉条のように,無理矢理実施しても,適切な評価結果は得られず,またこれらは「廃用化」を検出できません.したがって,直接介入することなく,評価する方法が必要で,その考え方をお話しました.

67名の方々に参加していただき,うだるように暑い池田商工会議所で約4.5時間の講義を受けていただきました.有り難うございました.

 

次回アドバンストコースでは,事例を提示し,今回の評価法をどのように現場で使っているかをお話します.

10月20日,12:30より,いつもの池田商工会議所です.詳細はこちらからどうぞ.

 

 

舌小帯,Stress-VPIと甲子園

舌小帯の早期手術は正しいか?

お約束の舌小帯と母乳保育についての私見の1回目,まず一般論から入ります.

 「母乳を飲まない」(正確には「breast feeding」ではうまく飲めないということだろうと思います)場合に,舌小帯のせいにしてはいけません.

 

まず,一般論からみてダメな理由を書きます.

 

「生後直後の乳児の舌小帯は,舌尖(舌前方)に付いているので,もともと短い」ということです.

母親の胎内にいる間の児は,口腔に流れ込む羊水を嚥下していますが,児が随意的に舌運動を行って嚥下しているのではありません.したがって,舌筋の発達は不十分であり,当然のこととして舌の体積は小さく「ペラペラ」です.その結果,乳児の舌小帯は舌尖近傍に付着していることで,短くなっています.その後に段階的に離乳食を摂取するようになって徐々に舌のvolumeは大きくなり,相対的に舌小帯の付着部位は,舌尖から後方に移動してきます.すなわち,乳児での舌小帯短縮症の正確な診断は難しいということです.

 

次回は,「では言葉の面からはどうなのか?」を書いてみます.

 

今日は,号外があります.それは,「Stress-VPIの学生さんと甲子園」です.

 

先月,TOUCH口腔機能回復センターに,ブラスバンドでB♭サキソフォーンを吹いていると「鼻に抜ける」患者さんが来られました.15歳の学生さんです.サキソフォーンを吹き始めた小学生の時から鼻抜けがあったとのことです.

学生さんは吹奏楽が続けたくて現在の高校に進学し,ブラスバンドに入っています.

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Stress-VPI用のPLPです.


初診時に聴覚評価と内視鏡検査の結果,典型的なStress-VPIであったため,吹奏楽器患者さん用のPLPを作成しました.稀なことですが,慣熟期間も短期間で済み,完成までには都合3回要しただけでした.

PLPを脳血管障害の患者さんに作成した場合,慣熟期間が,1月程度以上要することが多いのですが,強いmotivationのせいでしょうか(根拠はありません.申し訳ありません)

学生さんの高校は,同県の「甲子園」代表で,連日の練習はほんとにハードな様子でした.当然,応援団として猛暑の中での演奏時に,PLPは奏効し,鼻抜けは生じることなく,彼女の望みである1回戦を突破しました.バンザーイ!

まことに嬉しい限りです.

墓参と舌小帯

妙成寺のさざれ石を見ながら何の脈絡もなく舌小帯

 毎年石川県に墓参りに行くのですが,今年は仕事の都合で一月早い先週に出かけました.これまでは,山代温泉片山津温泉山中温泉粟津温泉のローテーションでしたが,最近の北陸新幹線人気はまだ衰えず,ほとんど予約が取れないため,金澤のKKRに宿泊しました.プライベートで金澤に滞在することがなかったので,足を延ばして能登の方に向かいました.目的地を決めずに,途中,国歌に詠まれている「さざれ石」拝みに「妙成寺」に出かけ,その後に松本清張の「ゼロの焦点」の舞台となった「能登金剛ヤセの断崖」を見てまいりました.手前の防護柵が無くなっているのが,何となく「ゼロの焦点」ロケ地で少し肝を冷やしますね.

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さざれ石

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ヤセの断崖(松本清張ゼロの焦点」ロケ地)

さて,舌小帯の話です.

先日ある研究会でいただいた「古くから議論されているけれど正解がはっきりしない問題」を取り上げてみます.

それは「乳児や小児の舌小帯への対応」です.「桶T式母乳育児法」を実践される助産師さんの中に,母乳が上手く飲めない場合に舌を触って舌小帯短縮症であるとして,切除術を勧める方がおられ,それを履行する耳鼻科医や歯科医がいることに,少し違和感を感じています.

母乳育児を否定するつもりはないのですが,「乳児が母乳を飲まない原因は『舌小帯短縮症』である」として,「将来,言葉に影響が出てはいけないので,手術しましょう」ということを生まれたての乳児の母親が聞くとどうなるでしょうか?

これが正しいのであれば,「将来胃がんになってはいけないので胃袋切除しましょう」とかわらないのではないでしょうか.

 

長文になりそうなので,次から2回に分けて舌小帯切除に対する私見を述べたいと思います.

管楽器演奏時の鼻抜け対策は?

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Stress-VPIのためのPLP


久しぶりのブログです.一社TOUCHの活動に加えてTOUCH口腔機能回復センター開設によりバタバタしていたらいつの間にか今年も残り半年強になってしまいました.

先週から熊本→大阪→札幌→大阪→東京と移動ばかりしていましたら,ピギーの引き過ぎか,背中を痛めてしまいました.トホホです.

 

さて,TOUCH口腔機能回復センターでは,「管楽器での鼻抜け」対策として楽器演奏者用のPLP(Palatal Lift Prosthesis 軟口蓋挙上装置)のサービスを行っていますが,先日来られた患者さんから,管楽器での鼻抜け対策には「アレキサンダーテクニック」とやらがあるのだとお教えいただきました.

 

早速調べてみたのですが,少々驚きの方法でした.

姿勢調整や意識の向け方を変える方法の様ですが,管楽器演奏時の鼻抜けの原因は,軟口蓋で口腔と鼻腔を分離する口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖機能の中心たる口蓋帆挙筋の疲労によるVPI(Velopharyngeal incompetence)です.この場合のVPIは,特別にStress-VPIと呼んでいます.

したがって,筋疲労を軽減しなければ改善しません.「疲労しないように口蓋帆挙筋を鍛えればよいではないか」とハードなblowing訓練を行うと,結果として疲労のために持続活動ができず,訓練効果は期待できません.

 

PLPで軟口蓋を挙上すると口蓋帆挙筋に要求される作業力は少なくて済みますので,持続活動が可能になります.これは,下肢機能に問題がある場合にクラッチなどで支持すると下肢筋にかかる負荷が減少することでリハビリテ-ションの効果があるのと同様です.

 なかなか領域が異なると,生理学とは無縁の方法があり,それが大いに大手を振っていることに驚いた次第で,久しぶりの投稿でした.

 

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令和元年度 第1回目基礎セミナーA終了しました.

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池田商工会議所で開始


 5月19日,令和になっての最初の基礎Aセミナー終了しました.前代未聞の10連休を挟んでいたため,参加される方が少ないのではないかと危惧しておりました.55名の方の出席をいただきました.有り難うございました.当日は,相変わらずの「場面晴れ男(場面雨男)」の面目躍如で,素晴らしい天気に恵まれました.

 次回は8月18日,暑い夏に同じく池田商工会議所で基礎B(評価)の開催です.VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)は,all mightyでしょうか?関連学会ではgold standardとしていますが,本当にそうなんでしょうか?口腔機能が廃用化している場合,指示に従えない場合にも有効な強力な検査法とは言えません.

 

 対応する上で重要な評価は,「今,食べているか」「食べていないか」から始まります.食べて良いかどうかは,臨床の現場では通用しません.

 「改訂水飲みテスト」は,大きな口腔容積の成人でも体格の小さな子供でも,同じ量の水を使った評価に信頼性はあるでしょうか?

 「反復唾液嚥下テスト」は口腔乾燥症の場合も評価できるのでしょうか?乾燥していると口腔を湿らせる旨の注記がありますが,唾液成分ではないですし,検査前に口腔清掃すれば刺激唾液が出ますので,再現性や信頼性は担保できるでしょうか?

 「フードテスト」では,プリン「など」をティースプーン1杯(3-4g)とありますが,プリンの物性もティースプーンのボウルの大きさも規定されていませんし,口腔容積が異なれば,同じ分量の食事も処理様式が相違します.

 このあたりの問題を,生理学的背景に基づいて明らかにし,その上で合理的で現場で使える評価方法をお話します.

 

詳細はこちらからどうぞ.

今期最後のシリーズセミナー終了しました

去る3月31日,今年度最後の摂食咀嚼嚥下セミナー(アドバンストコース)終了しました.

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拙宅の”猫額庭”の枝垂れ柳です.やっと満開.


食べているかいないかから始まるフローチャートと口腔清掃と口腔機能療法を対象者の様態によって治療的/維持的の4通りの組み合わせからなる4象限で考える対応法についてお話しました.基礎Aと基礎Bを知っていただいていると判り易いのですが,今回は初めての方も多く参加されましたので少しご理解いただく上で厳しかったかもしれません.

5月19日には,新年度の基礎Aを開催いたしますので,そちらで改めてご確認いただければよいのではないかと思っております(詳細はこちらから).

NHK朝ドラの「まんぷく」も前日に終了し,会場周辺も少々落ち着いてきました.

 

先週,4月4日は「赤ちゃん歯科ネットワーク」に呼んでいただき,マニアックな「口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖機能」の話をさせていただきました.学生時代の恩師,北村清一郎先生もご参加くださり,最前列でお聞きくださっていましたので,学生時代の口頭試問を受けているような気分でした.

今年の当法人でのVPFセミナーは,2020年2月16日の予定です.

写真は生れて初めての浅草浅草寺の雷門です.観光客だらけでびっくりでした.

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浅草寺.外人さんの観光客だらけ,こちらが異邦人の気分でした